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下肢動脈疾患の患者における創傷マネジメントのガイドライン|メインビジュアル
下肢動脈疾患の患者における創傷マネジメントのガイドライン

下肢動脈疾患の患者における創傷マネジメントのガイドライン

下肢動脈疾患のアセスメントは順を追って、非侵襲性から侵襲性に移る必要があります。

下肢動脈疾患の患者における創傷マネジメントのガイドライン

今まで創傷を伴う下肢動脈疾患の患者を治療するにあたり幾つかの異なる治療パターンを挙げ、同時に医学文献においてそれぞれの治療パターンを支持するエビデンスがどれだけあるかを示してきた。
以下の支持エビデンスの定義を参照されたい。我々の患者治療パターンが時に強固なエビデンスによって支持され、また時にエビデンスがわずかであるのが興味深い。
それぞれの正しいとされる治療パターンは、最良の結果をもたらしてこそ正しい治療パターンなのである。
AからCのエビデンス評価のレベルがそれぞれの勧告の最後に記してある。

定義

エビデンス評価のレベル
レベルA: ヒト(レベルⅠまたはⅡ)における下肢動脈疾患のメタ分析、又はCochrane Systematic Reviewで2件以上の無作為比較試験により支持されている。
レベルB:ヒトにおける下肢動脈疾患で1件以上、又は動物モデル(レベルⅢ)で2件以上の無作為比較試験により支持されている。
レベルC: 1件の試験による支持がある。そしてヒトに対して記述調査された/もしくは熟練した専門医の意見が記述された少なくとも2件のケースがそれを支持している。

創傷を持つ下肢動脈疾患の患者アセスメント

1.下肢の検査:
  1. 皮膚温度、毛細血管充填、静脈充填、色の変化、知覚異常などをアセスメントし、潅流の状態を知る
  2. 足背動脈及び脛骨動脈を触診して足部の脈の有無を知る。脈が触れるからといって下肢動脈疾患の可能を除外できる訳ではない。エビデンスレベルC
  3. ABIを計測して下肢動脈の血流をアセスメントして、虚血のレベルを知る: 正常値は1.0以上。0.9で下肢動脈疾患、0.6以上0.8未満がボーダーラインで、0.5以下は重度の虚血。
    エビデンスレベルB
  4. 時間と共に値が下がる可能性もあるので、定期的にABIの再計測をする。
  5. 足首の血管が石灰化して非圧縮性である可能性があり、下肢動脈疾患が疑われる糖尿病患者に対してトープレッシャーの計測を行う。トープレッシャーの値が30以下なら下肢動脈疾患である。
    エビデンスレベルC
  6. 全ての糖尿病患者と難治性創傷のある患者において、重度の動脈閉塞疾患の可能性を除外するにはアンギオグラフィーまたは動脈撮影を検討する。
  7. 重度の下肢虚血の徴候をアセスメントする:鎮痛剤を必要とする安静時疼痛が2週間以上続く。アンクルプレッシャーが40mmHg未満
    トープレッシャーが30未満
    組織欠如又は壊疽の存在
    エビデンスレベルC
  8. 脈管炎、壊疽、骨髄炎など、創傷の合併症をアセスメントする。
  9. 見た目が普通と違ったり、適切な治療をしているのに2~4週間も反応が見られないいいときは、生検を検討する。
2.感染:
  1. 動脈性創傷では、血流の減少によりその徴候/症状が微妙になるため、感染を注意深くモニターする。
    エビデンスレベルC
  2. 下肢切断の恐れがある動脈性創傷の感染は直ちに潅流状態のアセスメント又は外科的介入(もしくはその両方)を依頼する。エビデンスレベルC
  3. 感染の確実な診断には、ゴールドスタンダードとされる組織生検を用いる。しかしながら下肢動脈疾患に特定しない臨床研究において定量培養も適当な代替検査となりうることを示している。
3.栄養:
  1. ナイアシンについて:ナイアシンは末梢血管疾患を持つ患者に3000mg/日、最大60週間まで経口投与することにより、HDL-Cを高め、トリグリセリドを減少させる事があきらかになっている。
    エビデンスレベルB
  2. L‐アルギニンの内服について:L‐アルギニン6.6g/日を2週間内服すると間欠性跛行の症状が改善することが証明されている。
    エビデンスレベルA
  3. 術前、術後に可能であれば2000カロリーかそれ以上の栄養を与えることは、切断術を受ける患者にとって恩恵となる。
    エビデンスレベルC
4.患者教育:
  1. 下肢動脈疾患のある患者に教育すべきこと:慢性疾患の管理、服用薬のコンプライアンス、下肢の中立位と下垂位、化学薬品/温度/機械による外傷の回避、専門職による爪と足のケア、適切にフィットする靴の着用、靴下又はストッキングの着用、踵・足趾など突出部分の荷重軽減、医療専門職への定期的受診。
  2. 禁煙クラスを勧めて、それがアテローム性動脈硬化、心臓血管の障害、死を遅延させることを教育。
    エビデンスレベルB
5.付加的療法:
  1. 虚血性潰瘍の患者に効果のある、高圧酸素療法を考慮。
    エビデンスレベルB

創傷を持つ下肢動脈疾患の患者への介入

1.創傷を伴う下肢動脈疾患の患者に対し、臨床創傷エキスパートの治療を受けるよう勧める。
2.創傷の治療により潅流状態が妥当なものになるように。
3.デブリードメント:
  1. 潅流状態が確認されるまでは、安定している黒色痂皮のデブリは行わない。時にデブリは動脈性創傷には禁忌である。
    エビデンスレベルC
  2. 創部の洗浄には細胞毒性のないものを使用。
  3. 虚血性の下肢に対して血行再建及び、感染創部の壊死組織の外科的切除を実施又は考慮することが下肢救済の為にとられるべき行為である。
    エビデンスレベルC
  4. 壊死組織の外科的デブリードメント及び化学的デブリードメントを注意深くモニターしながら試行する。
4.ドレッシング
  1. 動脈性創傷に使用するドレッシングは頻繁に創部の状態を可視、確認できるものを選択する。
  2. 軟らかい壊死組織を含んだドレナージがあったり、骨や腱が露出した動脈性の開放創には湿潤ドレッシングを注意深くモニターしながら使用する。
    エビデンスレベルC
  3. 感染のない虚血性潰瘍は乾燥、安定した痂皮を保つ。
    エビデンスレベルC
5.抗生剤
乾燥した虚血性潰瘍の治療では外用抗生剤に頼ってはならない。
エビデンスレベルC