糖尿病 潰瘍 足

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感染

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感染のコントロールが創傷治療の結果を左右する結果が多々あります。

感染

感染は糖尿病性足病変において重大な合併症のひとつです。感染が硝子様血栓の形成を導き、それがさらに虚血、壊死、壊疽の原因となる。重度の感染は切断に繋がる最も頻度の高い要素であり、糖尿病患者において感染反応がみられる。
糖尿病患者を入院させることは重要、かつ必要である。入院及び抗生剤の静脈への投与が必要となる通常の基準には、敗血症、白血球増多症、末梢動脈疾患及びコントロール不良の糖尿病などがある。しかし重度の感染でも、糖尿病患者の目からは創部に明らかな感染の徴候が認められないかもしれない。感染への対抗力は白血球機能不全により減少する事がある。この白血球機能不全は、高血糖のレベルに多大な影響を受ける。従って感染時には厳しい血糖コントロールが最重要である。
加えて足に重度の感染がある糖尿病患者の場合、しばしば発熱や白血球数と関連しないことがある。Leichterらは足に重度の感染がある多数の糖尿病患者の検査データを調査した。それによると沈殿レベルの著明な上昇に関わらず、平均白血球数は9,700/102/mm3であった。GibbonsとEliopoulosは又、下肢切断の危険がある感染(膿瘍及び広範囲の軟部組織を含む)の患者中2/3に発熱や悪寒、白血球増多が見られなったと記している。これに類似しているが、Enerothらは足に感染のある患者の約50%は体温が37.8℃以下、白血球数10,000/102/mm3だったことを確認している。これらを踏まえると、臨床担当者は糖尿病患者の足の感染徴候として白血球数や体温の上昇だけに頼ってはいけないことがわかる。
従来の治療における創傷デブリードメントの問題点
全ての壊死組織を除去しない
ポケット →壊死組織
→嫌気性菌の好む環境
感染した骨、腱の残存 → 再感染
バクテリアによる菌体外多糖の生成
感染を引き起こすのは通常好気性のグラム陽性球菌や連鎖球菌であるが、グラム陰性の菌も頻繁に見受けられる。嫌気性菌による感染はよく起きる。Leichterらは調査したケースの中で重度の感染には複数の菌が存在していることを発見した。そのうち72%はグラム陽性で49%はグラム陰性であった。
培養技術は糖尿病足感染とって非常に重要である。潰瘍表面から単に採取するだけでは十分ではなく、結果も正確ではないことがたびたびある。培養検体はデブリードメント後の創傷の深い部分から採取するべきである。好気性菌だけではなく嫌気性菌も培養の必要があるからである。
培養採取後は直ちに広範囲の抗生剤投与を開始し、その後感受性のあった抗生剤へと変更する。多くの糖尿病足感染にはグラム陰性菌も含まれるので、始めの広範囲抗生剤はグラム陽性菌だけではなくグラム陰性菌にも対応するものを選択すべきである。経口か十脈への投与の選択については、場合に応じて医師が判断する。
抗生剤の経口投与が選択された場合は、患者に抗生剤を服用して1週間後に受診するという指示だけではいけない。糖尿病患者においては、たった24~48時間で急激に感染の悪化がありえるからである。従って抗生剤投与開始後数日のうちに受診させるべきである。加えてもし発赤や浸出液、リンパ管炎の徴候が見られたときは直ちに医師に連絡するよう、患者に指示しなくてはならない。またこれら患者の多くは、足に知覚障害があるため、痛みを訴えるということは感染が重篤で緊急の処置が必要とされることである。異臭の発生も感染悪化の徴候であり、それは嫌気性菌の存在を意味する。他の徴候が無くとも、血糖レベルの上昇は感染の悪化を強く示唆することであるため、糖尿病患者の血糖レベルを注意深くモニターすることも重要である。
入院及び抗生剤の静脈投与が必要となる通常の基準には、敗血症、白血球増多症、末梢動脈疾患及びコントロール不良の糖尿病などがある。
緊急入院が必要なほかの徴候としては、足底面の軽度と見受けられる感染に、足背の紅斑や浮腫が伴ったときである。
患者が敗血症ではなくても、上記の徴候が見られた場合は、高い確率で感染は深部組織まで進行し足背まで広がっている。このような感染には切開、排膿、デブリードメント、抗生剤の静脈投与、そして厳しい血糖コントロールが必要である。
これら積極的治療に反応しなくなった時は菌種が変わっているかもしれないため、デブリードメントと再培養をする。感染が慢性化、再発、治癒しないときは骨髄炎の存在を考える。
骨髄炎は糖尿病性足病変において頻繁に発生するが、臨床所見での判断は難しい。実際Newmanらは生検で証明された骨髄炎のうち臨床所見時にその存在を疑われたものは1/3に過ぎないことを確認している。骨が露出していたり、潰瘍が骨まで達している場合は高い確率で骨髄炎にかかっている。スキャン技術は必ずしも正確とは言えない。テクネチウムを使用した3位相スキャンは検査の特異度が低いがインジウム111を使用したスキャンの特異度は高い。MRIは信用できる技術である。
デブリードメントの効果
異物、壊死組織の除去
バクテリア数の軽減
創部の清浄
創部の血小板、成長因子の増大
創部の目視確認を容易にする
Steedらにより1998年導入
足を水に浸けるという治療法は従来より行われていたものの、実際それによる効果はなく、それどころか浸軟をおこさせ感染を悪化させる。足の知覚障害のためにお湯が熱すぎて熱傷を起こすこともある。薬品に浸ける場合は化学熱傷の危険がある。足浴は積極的治療の遅延をもたらす。
浮腫は高頻度に存在し、それが末梢血管を押しつぶすことによってい血流不全の原因になる。枕を使用した足の挙上は効果があるが、高すぎる挙上は逆に血流を妨げるので注意が必要である。慎重に圧迫することも浮腫コントロールになる。
荷重を避けることは非常に重要である。これらの患者は足に知覚障害があり、創傷に痛みが無い為に歩き続けるため、圧がかかって治癒を遅らせるだけではなく創傷の拡大も引き起こす。
ではどのような荷重制限が一番効果的だろうか?長期間のベッド上安静は現実的ではなく、静脈血栓や肺塞栓のリスクがあって危険である。松葉杖の使用は難しく、神経障害による運動失調が少なからずある患者には危険である。車椅子の完全な除圧は難しい。荷重を避けるのに一番進められるのはギプス固定である。ただし重度の末梢動脈疾患、運動失調、盲目、病理学的肥満の患者にはギプス固定は禁忌である。
ギプス固定は創傷部分への荷重を完全に避けつつ、患者が移動することを可能にする。最近の調査ではファイバーグラスの固定式ギプスの効果と安全性が向上したと報告されている。その調査において、神経障害がある足の創傷がファイバーグラスギプスの使用で30日以内に50%治癒したと報告されている(比べて、治療靴使用の患者の治癒率は30日以内で20%であった。)
調査内の患者コンプライアンス率は高かった。腎臓やすい臓移植の比率が高い為に、 糖尿病患者の免疫抑制は増大している。免疫抑制は足潰瘍の治癒や感染の壊滅を大きく妨げ、又、免疫抑制患者の切断率は高い。
腎臓移植をした糖尿病患者の少なくとも15%は短期間のうちに下肢切断となっており、又移植後10年生存した患者の約33%も下肢切断を余儀なくされている。
糖尿病患者の創傷治癒や感染の壊滅に一番の妨げとなるのは血流不全である。代謝コントロールがよく、適切にデブリードメントや抗生剤の静脈投与が行われ、荷重が避けられているのにも関わらず創傷が治癒しない時、その理由として血流不全が疑われる。Millsらの研究によると全ての正しく治療が行われた神経障害のある患者の潰瘍と感染にうち、治癒したのは足の脈が触れる患者だった。足の脈が触れず、動脈造影によって重度の閉塞が確認された足病変・感染は血行再建により治癒している。ABI0.50以下で経皮酸素分圧が30mmHgでは感染は消滅せず、潰瘍は治癒しない。血管外科医はこれらのケースを考慮すべきである。LoGerfoらは末梢動脈の血行再建の重要性を唱えており、2,883の末梢動脈再建術のケース中で、あらゆるカテゴリーの切断が減少し、同時に足背動脈バイパスの増加によっても確実に減少していることを確認した。
下肢切断の危険がある創傷をもつ糖尿病患者でも正常な体温と血液検査結果である場合がある
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