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アンギオソム Angiosome|メインビジュアル
アンギオソム Angiosome

アンギオソム Angiosome

アンギオソムとは、Dr. Ian Taylorというオーストラリアのメルボルン医科大学の形成外科の教授が発見、初期の研究をした元々は形成外科の世界からのコンセプトです。
(Taylor et al. Plastic & Reconstructive Surgery: Volume 102(3) September 1998 pp 599-616)

アンギオソム Angiosome

皮膚下の神経にはどの神経がどの部分の皮膚を給与しているかという皮膚分節 ダーマトームという有名なコンセプトがある。 それと同様に、新鮮な死体サンプルの動脈血管に色素を注入することによって、皮膚表面に加えて、どの体内組織がどの源血管(Source arteries)によって補給されているのか、という3Dの血流地図である。形成外科では皮弁を頻繁に行うため、このアンギオソムの地図を把握し活用することによって、皮弁の成功率を高めることになる。
下肢救済においても、足部及び足首の血管構造を知り、機能を理解することは重要である。 Dr. Taylorによる画期的な解剖学ではアンギオソムの原理が定義されており、それによると人体は個々のアンギオソムに分割され、そのそれぞれのブロックにはソースとなる動脈が供給されている。
アンギオソムの境界線と、そのソースとなる動脈の中の血管のつながりを知ることにより、創傷治癒に必要な血流を確保した切開等オペのデザイン作りが可能となる。また、有茎皮弁の成功する採取場所や、切断が治癒するかを予想する助けにもなる。更に虚血性潰瘍の治癒においてバイパスか血管内治療かの選択をするガイドにもなる。
アンギオソムの臨床適応:
  1. 皮弁などの皮膚切開部のプラン作り
  2. SPPレーザードップラーのセンサー設置位置ガイド
  3. PTAやバイパスなど、血行再建時のガイド
Dr. Taylorのアンギオソムの研究は、米国の首都、ワシントンDCのGeorgetown大学の形成外科医師、Dr. Chris Attingerによって更に発展した。米国形成外科学会誌Plastic Reconstructive Surgery の2006年6月号に、彼のアンギオソムの研究のまとめが掲載された。詳細は以下を参考にされたい。(Attinger et al. PRS. 117. 261S. 2006)
Dr. Attingerは、Georgetown大学で、15年前から下肢救済センターという、現在の創傷ケアセンターのさきがけとなったセンターを開設した。
今回紹介する写真は、Dr. Attingerから日本の医療関係者の教育のために、と特別にいただいたもので、この機会に感謝の念を述べさせていただきたい。
(Footcare Now/ Millennia Wound Management, Inc. would like to thank Dr.Chris Attinger of Georgetown University for the use of his angiosome pictures for educational purposes in Japan.)
人体には40近くのアンギオソムがあるが、足と足首周辺には、3つの動脈(前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈)から主に6種類のアンギオソムが存在する。これをそれぞれ紹介する。
(1)前脛骨動脈 → 足背動脈
(2)後脛骨動脈 → 内側足底動脈(青色) 
(3)後脛骨動脈 → 外側足底動脈(赤色) 
(4)後脛骨動脈 → 踵部分岐(青色) 
(5)腓骨動脈 
(6)踵部分岐の腓骨動脈 
All pictures provided by Dr. C.Attinger, Dept of Plastic Surgery, Georgetown University.
足部及び足首の6つのアンギオソムは3大動脈から足部・足首へつながる。 後脛骨動脈は内果から足底に、前脛骨動脈は足背に、腓骨動脈は足首前外側と足後部外側に走っている。 足部の大きなアンギオソムは上部動脈の分枝のアンギオソムに分割される。後脛骨動脈の3主要分枝はそれぞれ足底の別々の場所に走っている(踵部、足底動脈内側、足底動脈外側。) 腓骨動脈の2分枝は足首及び足後部の前外側、前部穿通枝(足首の外側前部上方)、及び踵部(足底部踵)に走っている。前脛骨動脈は足首前部に走って足背動脈となり、足背に走る。
前脛骨アンギオソムには前脛骨動脈及びその足背分枝が走っており、そこには足首前部と足背前面を含む。
後脛骨動脈の3分枝は以下のアンギオソムに走っている:
  1. 足底内側:内側足底分枝が走っており、そこにはインステップを含み、個人の足構造にもよっては第2趾も含む。
  2. 足底外側:外側足底分枝が走っており、そこには足中間部、前部及び、大抵は第1趾以外全ての足を含む。
  3. 踵部:踵部分枝が走っており、踵の内側、足底側、外側を含む。備考: 踵には踵部内側及び外側動脈がオーバーラップしている。
腓骨動脈は以下2つのアンギオソムに走っている。
  1. 足首外側:前穿通枝が走っており、そこには足首外側前部を含む。
  2. 踵部:踵部分枝が走っており、そこには足底部を含んだ踵部を含む。

足部及び足首の足背面への血液供給に関する解剖学的研究

目的:
足部および足首の足背面への血液供給に関連する、前脛骨動脈と足背動脈の異なったパターンの研究
方法:
防腐処理を施した150の人体標本を解剖
結果:
4つの異なるパターンが認識された。足背動脈は足首遠位の前脛骨動脈の延長として長母趾伸筋腱と長趾伸筋腱の間の間に走るものが最も多かった(287件、95.7%)。残り13件(4.3%)は前脛骨動脈と足背動脈を結ぶ軸の3つの異なるパターンを示した。1つは前脛骨動脈がもっと外側のコースを走り、外踝の前を通るもの(6件、2%)、1つは膝窩動脈の穿通枝が本来は足背動脈のコースをたどるもの(4件、1.3%)、そしてもう1つは膝窩動脈の穿通枝に代わり前脛骨動脈が外側に分枝を作り足首の外側へ供給するもの(3件、1%)である。
結論:
前脛骨動脈と足背動脈を結ぶ軸の動脈の変化は全体の約5%に発生する。
臨床的関連:
これら変化の存在を知ることが術前のアセスメントを助け、術中の受傷を防ぐことができる。

足部における動脈構造のバリエーション

重症な動脈閉塞疾患を持つ患者における足部動脈の再建は日常的かつ有用な手順となってきている、しかしながら動脈吻合に最適な箇所を見つけるのは困難なことが多い。
足部動脈の最も重要な構造的変化と足背動脈とそこに交差する腱の関連を見極める為に以下の研究が17の死亡した人体(男9、女8)の30の下肢にて行われた。
それら人体の平均死亡年齢は69.8歳(42歳から93歳まで)。評価方法には、解剖、動脈造影、Corrosion Cast法(脛骨動脈に液体プラスチックと触媒を注入して、足部の軟部組織をデブリードメントする)が含まれる。
軟部書式崩壊の様々なステージにおけるCorrosion Castモデルの写真が撮影された。
6.7%のケースで足背動脈が不在、33%は弓状動脈が不在であった。
6.7%の足背動脈は膝窩動脈から起因していた。
足背動脈の54%が足首の所で、43%が足首の上、たった3%が足首下で長母趾伸筋腱の下を交差していた。
この研究で、足背動脈吻合に最適な箇所は足首遠位の部分だとわかる。

弓状動脈の存在:死亡した人体の72件の足を調査

本調査の目的は弓状動脈の発生数を調べるものである。
弓状動脈は第2~第4中足骨のベースを外側に横切るように進み、第2~第4中足骨の足背側に走る。
解剖、検査された72件の足のうち、弓状動脈が存在していたのは16.7%で、通常言われるように第2~第4中足骨足背動脈への主要な血液供給は弓状動脈であるとは言えないことを示している。
中足骨足背動脈に供給するのは弓状動脈より外側足根動脈の方が多い(47.2%)ということがわかった。
近位部穿通枝、また上記2つとあわせた3つの様々な組み合わせも、第2~第4中足骨動脈への血液供給に貢献していることが発見された。
よって、密接な動脈のネットワークが発達の過程で分化していることが、弓状動脈よりも足背前部への血液供給を行っていることがわかる。
1件のケーススタディで例を挙げる。この患者は70歳のPAD(虚血下肢)の患者で、足の親指を家具にぶつけ、爪がはがれた外傷からによる、慢性の足虚血創傷がある。 その創傷の周辺で、レーザードップラーでSPP値を測定した結果、足背は低く(SPP 21mmHG)で足底は高い(SPP 41mmHG)。これは明らかに足背のアンギオソムの血流が悪い(SPP 40以下)、ということになる。このような場合は、血管外科医と相談して、前脛骨動脈・足背動脈へのバイパス、もしくはPTAを勧めるようにすることによって創傷治癒の確立を上昇することができる。