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リアルタイムPCRを使用した迅速なバクテリア特定|メインビジュアル
リアルタイムPCRを使用した迅速なバクテリア特定

リアルタイムPCRを使用した迅速なバクテリア特定

あらゆる感染の治療において、感染微生物の迅速な特定は重要なステップです。この文献は新開発のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)試験法により表皮ブドウ球菌から黄色ブドウ球菌を区別することに成功した培養陰性の骨髄炎のケース報告です。

培養陰性骨髄炎におけるリアルタイムPCRを使用した迅速なバクテリア特定

Naomi Kobayashi, Thomas W. Bauer, Hiroshige Sakai, Daisuke Togawa, Isador H. Lieberman, Takaaki Fujishiro, Gary W. Procop, Department of Anatomic Pathology L25, The Cleveland Clinic Foundation, 9500 Euclid Avenue, Cleveland, OH 44195, USA, Department of Orthopedic Surgery L25, The Cleveland Clinic Foundation, 9500 Euclid Avenue, Cleveland, OH 44195, USA Spine Institute, The Cleveland Clinic Foundation, 9500 Euclid Avenue, Cleveland, OH 44195, USA, Department of Clinical Microbiology, The Cleveland Clinic Foundation, 9500 Euclid Avenue, Cleveland, OH 44195, USA

要約

新開発のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)試験法により表皮ブドウ球菌から黄色ブドウ球菌を区別することに成功した培養陰性の骨髄炎のケース報告で、足病外科の臨床サンプルに対する新しい分析法の応用を詳述したものである。

1.イントロダクション

あらゆる足病変感染の治療において、感染微生物の迅速な特定は重要なステップである。
特に脊髄感染は、患者に神経的症状が現れると緊急の介入が必要とされるが、従来の培養法では最終結果を得るまでに数日かかり、又、術前の抗生剤投与により培養結果が陰性となることが多い。
この「培養陰性」の存在が以前より[1, 2]で報告されている。
こうした時は生検での急性の炎症が感染の可能性を示唆することになるが、多くの微生物は形態的に同一な為、感染バクテリア種の確実な特定は困難である。
適正な抗生剤を投与し、臨床計画を立てるには確実なバクテリア特定が重要である。
バクテリア検出に使用する、分子間の分析試験法が最近幾つか開発され[3,4]、その中でも最も人気が高いものが広範囲の「包括的」ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)試験方法で、バクテリアの16S rRNA遺伝子上で分析される[5,6]。
この包括的PCR分析試験はバクテリアの存在を証明する助けにはなるが、確実な識別となると通常これのみでは不十分であり、種特異性交配プローブや核酸塩基配列などの付加的試験が必要となる。
私たちはブドウ球菌属、及び補助シグナルで黄色ブドウ球菌を検出する独自のリアルタイムPCR分析試験を開発した。これはブドウ球菌種に特定したプライマーを1セットを使用するが、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)プローブは2セット使用して、その内の1セットは黄色ブドウ球菌のみを特定するようデザインされている。この分析試験では陽性血液培養 [7] に有効な感受性と特定能力を示しており、迅速で信頼できる黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌(最も多い足病感染の2つ)の検出と区別に役立つと思われる[ 8-10]。
私たちがこの新しい試験法を骨髄炎のケースに用いたところ、迅速に病因生物を検出できたが、従来の培養では、(推測されるに術前の抗生剤投与のために)結果は陰性と出た。

2.ケースレポート

ある64歳の女性が、吐き気、嘔吐、体重減少、背中の痛みで入院し、偽膜性大腸炎と診断された。入院直後より心房細動があり、心室拍動数は100回/分~220回/分の間だった。
血液培養にてMRSAが検出され、バンコマイシン(1g/日)、ゲンタマイシン(1g/日)、ザイボックス(600mg/日)をいずれも静注にて8週間投与を開始した。この抗生剤療法後、血液培養は陰性となった。
しかしながら背中の痛みは持続し、MRIでは骨盤後傾に関係する脊髄圧迫による椎間板炎と共に、T10とT11の骨髄炎を示唆した。
その後女性は脊髄症(ミエロパシー)を発症し、緊急の後外側減圧、T10及びT11のデブリードメント、椎間板腔介入が必要となった。骨組織、軟部組織のサンプルが収集され、培養、病理、リアルタイムPCRが行われた。脊椎減圧が確認された後、T8からL1の脊椎固定術が実施された。組織サンプルは微生物科に送られ、培養とDNA抽出が行われた。DNA抽出にはQiagen DNA Minikit (Qiagen Inc., Valencia, CA)が使用され、そのDNAはLightCycler®(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)を用いたリアルタイムPCRによって評価された。
この試験に使用されたプライマーとプローブは前出の通りで、バクテリアゲノムの重要な構成要素である伸張因子Tuを記号化したtuf遺伝子(GenBank AF298796)をターゲットとした。
おおまかには、同方向反復塩基配列は5′-CAATGCCACAAACTCG-3′ (position 33-48)で、逆方向反復塩基配列は5′¬GCTTCAGCGTAGTCTA-3′ (position 510-494)であった。広範囲のブドウ球菌種特異性FRET交配プローブは5′-ACGGCCTGTAGCAACAGTAC-FITC-3′ (position 372-391)及び5′-LCRed640-CGACCAGTGATTGA GAATACGTCC-Phosphate-3′ (position 369–346)で、黄色ブドウ球菌種特異性FRET交配プローブは5′-GGCGATGCTCAATACGAAGAAAAAATC-FITC-3′ (po¬sition 239-265) および 5′-LCRed705-AGAATCAATG GAAGCTGTAGATAC-Phosphate-3′ (position 268-291)であった。
PCR混合物の構成は、MgCl2が3.0mM、濃度1.0μMの各ブドウ球菌、濃度0.2μMの各ブドウ球菌種特異性プローブ、濃度0.2μMの各黄色ブドウ菌特異性プローブ、Light-Cycler FastStart DNA Master Hybridizationプローブx10混合物の2μl。それぞれの毛細管に20μlの反応を起こさせるために、DNA抽出テンプレートが2マイクロリットル追加された。サイクルパラメーターは酵素活性及びDNA変性の為の単一の培養で構成されており、それに45のPCR増幅サイクルが続いた。バクテリア変種の標準的知識に基づくと、F2チャンネルの定量曲線の存在はブドウ球菌の存在を示唆し、LightCyclerによるF3チャンネルの融解曲線は黄色ブドウ球菌の存在を示唆していることがわかった。
もしこの融解曲線がなければこの標本では黄色ブドウ球菌が陰性となったであろう。この患者の抽出DNAの定量曲線は陽性を示し(図1)、融解ピーク分析(図2)は王将クブドウ球菌をコントロールするものと同一である。つまり、リアルタイムPCRではDNAに黄色ブドウ球菌の存在が確認され、従来のバクテリア培養の1週間後の結果は全て陰性だったのである。組織学的にはT10-T11間の組織に急性の炎症は見られなかったが、椎間板腔の生検では好中球の群生が散在し、感染を示唆していた。
術後、ミエロパシーと背中の痛みは改善し、リアルタイムPCRによる黄色ブドウ球菌陽性と組織学的炎症所見のため、引き続き同じ抗生剤療法を1週間追加投与した(計9週間)。術後1週間の間感染発症の徴候が見られなく退院となった。退院から6ヵ月後のレントゲンではアラインメントは維持されており、状態も安定し、感染再発の症状も無かった。
図1
図2

3.ディスカッション

バクテリアの検出と識別の分子レベルの技術が最近になって幾つか開発されている[3,4]が、そのうち最も広く使われているのがPCRで、足病変感染へのPCR応用を記したものがいくつか報告されている[5,6,11,12]。 
リアルタイムPCRは比較的新しい技術であり、それは迅速で信頼でき、大量の検査をこなせるという事実から、従来のPCRよりも臨床での使用に適していると言える[13]。私たちはブドウ球菌種に特化し、黄色ブドウ球菌を多種と区別できる独自のリアルタイムPCRを開発した。
この方法はバクテリアの16s rRNA遺伝子を用いる、所謂「包括的」PCRに比べて幾つかの利点がある。まず始めに、足病感染において最も重要な生物は黄色ブドウ菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌などのブドウ球菌種であり、私たちの試験法はそれに特化している。
次に「包括的」PCRではPCR増幅に良く組み替えDNAを試用するため、E-Coli汚染などで偽陽性が結果に出ることが多いが、この試験法では真陰性の結果を得ることが可能である。
さらにリアルタイムPCRは迅速な試験が可能なため、他では数日待たなければならないところを、組織採集後2、3時間以内に結果を得ることができる。測定性能自体は極めて高く、以前のスタディによるとこの試験による黄色ブドウ球菌の検出限度は6.5ゲノムコピーだった。
反面、この試験法の高い特異性のため、ブドウ球菌と他の種の混合感染の場合でもブドウ球菌しか検出されない。この試験法の限度の一つは数あるブドウ球菌種のうち黄色ブドウ球菌種のみを区別することである。他のブドウ球菌から黄色ブドウ球菌を区別することは重要であるが、MRSAの識別も臨床的に重要なので、他の試験との併用が要される。
このレポートにある患者には、血液培養で検出されたMRSAに対する抗生剤が術前に投与されが。この抗生剤療法が従来の血液培養に陰性の結果をもたらしたと思われる。
以前[17]で報告されているように、血液培養で分離されたバクテリアと、脊椎骨髄炎からのバクテリアは不一致である可能性がある。従って今回のケースではPCRが病因菌を検出した唯一の試験であった。Whiteらは[2]で骨髄炎における経皮的生検さんプルの組織学的評価と微生物学的評価を混合した検査法を報告している。彼らは慢性骨髄炎と診断されたケースの中に、培養陰性、組織学的検査陽性が存在することを記した。
壊死組織内のDNAを検出してPCRが偽陽性の結果を出すことも起こり得るが、感染を示唆する組織学的所見と足病変感染に最適化したPCRを合わせて使うことが、培養陰性のケースを助けるということが今回のケースでわかる。
従来の培養は、特に抗細菌の疑いがある場合は未だ重要である。分子的試験、従来の培養、組織学的試験を適切に合わせて使うことによって、感染の正確な診断が可能となると言える。
References
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