糖尿病 潰瘍 足

疼痛を伴う下肢潰瘍と創傷治癒の妨げとなる薬物|メインビジュアル
疼痛を伴う下肢潰瘍と創傷治癒の妨げとなる薬物

疼痛を伴う下肢潰瘍と創傷治癒の妨げとなる薬物

創傷治癒の妨げとなる薬物には様々なものがあり、さらに疼痛を伴う潰瘍もある。
治療を始める前に、患者が使用している薬物をすべて把握し、その中に創傷の原因もしくは創傷治癒の妨げになっているものがないか知る必要がある。

疼痛を伴う下肢潰瘍と創傷治癒の妨げとなる薬物の例

はじめに
血流障害のある患者において、下肢潰瘍はよくある症状である。慢性下肢潰瘍の95%は虚血、うっ血、神経、そして他の状態(血管炎、高血圧、梅毒など)に起因する。以下のレポートは、当初血流障害が疑われたものの、下肢潰瘍には珍しい原因であったケースを報告するものである。
56歳の男性が3ヶ月続く疼痛を伴った下肢潰瘍のため創傷ケアセンターに入院。患者は両下肢に静脈不全の既往があり、深静脈結紮術(SEPS)を行っていた。 患者は2年前にも足首に似たような創傷ができ、圧迫療法で治癒しているが、今回は治癒していない。
診察では、左踝部、脛骨部、足背面にサイズ10 mm2 × 10 mm2 から 50 mm2 × 50 mm2の潰瘍が4つ。 じくじくした潰瘍は浅く、潰瘍縁は不明瞭。茶色の色素沈着を伴う浮腫が広がり、周辺の皮膚は鱗状に剥げ落ちていたが、骨、腱、靭帯、筋肉に達してはいなかった。潰瘍は強い疼痛を伴い、潰瘍周辺には発赤があった。白血球数、血小板数、生化学的検査値、血糖値など全てのラボデータは正常であった。
治療には当初、創傷ドレッシング、圧迫による浮腫コントロール、抗生剤、外科的デブリードメントが用いられたが、どの潰瘍にも治癒傾向は見られなかった。
左下肢潰瘍の境界部より皮膚の生検標本を採取したところ、リンパ細胞の血管周囲浸潤、血管内皮細胞の腫脹、急性血管炎の徴候を伴わない血管壁の肥厚が見られた。真皮全体には血栓塞栓の経過が見られる。
(ヘマトキシリン-エオジン染色法を用いた100倍率の図)
既往歴によると、患者は慢性顆粒球性白血病の治療薬を3年間服用し、そのコントロールは良好であった。また、患者によると、この1年間はヒドロキシ尿素を服用とのことで、これは問題の正しい診断に際し大きな興味をひいた。
ヒドロキシ尿素誘発による下肢潰瘍の診断は困難である。なぜなら下肢潰瘍は、ヒドロキシ尿素を長期間服用した後でないと発症しないからである。この潰瘍には強い疼痛を伴い、通常の創傷ケア治療のほとんど全てが効果を示さない。ヒドロキシ尿素誘発による下肢潰瘍の臨床的特徴には、極度の疼痛、爪の茶変色、びまん性色素沈着などが含まれており、これらの徴候が他の下肢潰瘍と区別するのに役立つ。唯一の有効な治療は、ヒドロキシ尿素の服用中止である。ヒドロキシ尿素の投与を再開すれば潰瘍も再発する。これらの特徴は今回のケースの所見と一致しており、ヒドロキシ尿素の投与を中止したところ、2週間でこの患者の下肢潰瘍は完治した。そして1年後のフォローアップ受診時、患者の下肢に潰瘍は無かった。
今回のケースは長期間のヒドロキシ尿素療法が疼痛を伴う慢性下肢潰瘍を引き起こし得る事とその治療にはヒドロキシ尿素投与の中止しかない事を確認している。臨床従事者が患者の現在の服用薬を知ることは重要である。今回のように当初誤診をしたケースは、血流障害以外の他の要因が慢性下肢潰瘍を誘発することもあることを示している。従って私達は、薬物投与をされている患者における長期の下肢潰瘍に対して、臨床従事者は常に稀な原因も考慮することを提案する。
全身薬物は、処方薬、市販薬とも普通に患者に服用されているが、これらは創傷の治療に影響を及ぼすことがある。
慢性創傷を持つ患者の大半には併存疾患があり、大抵複数の薬物服用が必要である。
これら薬物は創傷の治療に良い影響を与えることもあれば、悪影響を与えることもある。
創傷治癒の妨げとなる薬物の例:
  • 副腎皮質ステロイド
  • 細胞毒性抗がん剤
  • ニコチン
  • 抗血小板剤/非ステロイド系抗炎症剤
  • 抗生剤
  • コルヒチン
  • 抗凝固剤
  • 血管収縮剤
  • 抗リウマチ剤
  • 免疫抑制剤
副腎皮質ステロイド
ステロイドは多くの療法に広く使用されており、プレドニゾロンやプレドニゾンなどの様々なコルチゾンの形態がある。副腎皮質ステロイドは繊維増殖や肉芽組織形成を抑制する。
抗がん剤
抗がん剤は細胞毒性であるが、がん細胞特定ではない。多くの種類の抗がん剤があるが、ほとんどは急速に複製するがん細胞に作用する。また抗がん剤が軟部組織に漏れた場合の溢血のリスクや、副作用による血液学的変化が治癒に影響を及ぼすこともある。
喫煙
煙草に含まれる多くの化学薬物が創傷治癒に悪影響を及ぼし、それにはニコチン、一酸化炭素、シアン化水素などが含まれる。ニコチンは赤血球、繊維芽細胞、大食細胞などを減少させ、血小板粘着を増加させるが、これは皮膚血管収縮を招く。一酸化炭素はヘモグロビンによる酸素運搬を妨げ、シアン化水素は酸化的代謝だけでなく細胞レベルへの必要な酸素運搬に必要な酵素のシステムを阻害する。煙草1本の喫煙は末梢血流を1時間のあいだ50%減少させ、酸素分圧を2時間のあいだ減少させる。従って喫煙は創傷が治らない大きな原因であると言える。
抗血小板剤
これにはアスピリンや他の非ステロイド系抗炎症薬を含む。その影響は服用量に因る。これらの薬剤はプロスタサイクリンの合成、アラキドン酸代謝や血小板凝固に由来する抗炎症媒介物、そして創部の抗炎症反応やムコ多糖類合成を妨げる。
抗生剤
抗生剤は急性及び慢性創傷に多用されているが、抗生剤の性質はバクテリアを殺すことで創傷治癒の改善ではない。抗生剤は創傷感染の治療には重要である。しかしながら感染の無い創傷にはなんの役も果たさない。ペニシリンはコラーゲン結合に影響を及ぼすことにより創傷の張力を阻害する。
コルヒチン
通風治療に用いられるコルヒチンは創傷に多くの悪影響を及ぼす。 それは顆粒細胞の移動とサイトカイン放出を減少させる。また、コルヒチンは血管収縮性があり、繊維芽細胞合成を減少させ、プロコラーゲンの細胞外への運搬を中断し、コラゲナーゼ合成がコラーゲン分解を増加し、創傷収縮を妨げる。
抗凝固剤
血液の粘性減少に使用される抗凝固剤にはワーファリンやヘパリンなどがある。これらは適切な凝固を阻害し、血腫や血清腫の形成リスクを高めることで創傷に悪影響を及ぼすことがある。それはパープルトウ症候群などの組織壊死の原因となる。
血管収縮剤
アドレナリン、ニコチン、コカインなどは組織の低酸素血症の原因となることがあり、微小血流や組織形成に影響を及ぼす。局所麻酔の幾つかは血管収縮の機能があるので、疼痛コントロールに使用している場合は注意が必要である。
抗リウマチ剤
D-ぺニシラミンは金属酵素のリシルオキシダーゼを阻害することによってコラーゲン結合の減少、コラーゲン分解の増加、破断強力の減少の原因となる。メトトレキセートやDNA及びRNA合成を部分的にブロックする。それは上皮細胞より、大食細胞とT細胞に100~1000倍も細胞毒性がある。またインターロイキン-1(IL-1)を阻害し、インターロイキン-6(IL-6)を減少させる。抗リウマチ剤が及ぼす影響の全体像はまだ解っていない。
免疫抑制剤
一般的に、副腎皮質ステロイド以外では治癒阻害における著明なエビデンスはなく、自己免疫性疾患や血管炎に関連した創傷の治癒を促進している。しかしながらこれら免疫抑制剤は感染リスクを高める。幾つかの免疫抑制剤は創傷治癒を高めたと言うエビデンスもある。