糖尿病 潰瘍 足

創傷ケアケーススタディ 2|メインビジュアル
創傷ケアケーススタディ 2

創傷ケアケーススタディ 2

患者病歴: 70歳男性、脳梗塞の為、半年間寝たきり状態、重度の2型糖尿病を20年間。左足、踵後方部の褥瘡3ヶ月以上。
内科専門医から「ABIは0.95で血流チェックも済ませました。明日の朝、オペ室でデブリードメントをお願いします。」との依頼。
感染 : なし。悪臭なし。ドレナージなし。
創傷 : 左踵部: 黒色の乾燥した痂皮。

オペ前

オペ後

オペ後3日目
足創傷治療法 :
オペ室内での外科的デブリードメントを実施、踵骨後方の骨膜も削って培養へ出した。この時点では骨膜も硬く、感染はない様子であった。 シルバーガーゼ(Acticort)とハイドロサイト(Allevyn, 両方ともスミス・アンド・ネフュー製品)で無菌・湿潤環境を保ち、このドレッシングを3日ごとに交換した。
オペ2週間後:
治癒傾向だったものの、黒い壊死部が現れる。この時点でエキシマーレーザーPTAのできる病院への転院し、血管外科へコンサル。 重度虚血下肢との判断で、レーザーPTAで血流再建オペを施行し、創傷部SPPも50まで上昇、後日完治した。

オペ2週間後

2週間後

レーザーオペ前
課題: このケースでの失敗は、自身による血流のアセスメント(SPP, TcPO2など)を怠り、内科専門医の「ABIが0.95だからOK」というアセスメントを信頼したことにある。
長期の糖尿病患者は特に動脈硬化と石灰化が顕著で、普通のレントゲンに足の血管が見える事もよくある。 基本的に、
糖尿病患者のABIは信頼してはいけない。 
特に0.9や1.0以上あっても、血流が十分ある、と安心しないように心がける必要がある。

この機会を使って、SPPの臨床意義を再確認

SPP (Skin Perfusion Pressure)は“皮膚灌流圧”と日本語訳され、よくレーザードップラーと呼ばれているが、サーモグラフィの機械をただレーザードップラーと名乗る他社製品もありため、区別する必要がある。
ちなみにTcPO2とはTranscutaneous Partial Pressure Oxygenの略で、40年前に開発・発売された、多少古い技術を使った皮膚表面の血流モニター機械である。
未だにTcPo2の機械を創傷ケアセンターで使用しているところもあるが、SPPの方が皮膚表面の血流アセスメントに正確である、ということはすでに証明済みである。

SPP (Skin Perfusion Pressure)の原理は?

レーザー技術で、皮膚毛細血管中の赤血球濃度を使用した血流計測法で、血圧計カフと繋がっているセンサーがレーザーを皮膚表面へ発射し、毛細血管内の赤血球の動きがレーザーを反射する。
センサーが反射レーザー波を測定・皮膚灌流圧を計算する。

SPP(レーザードップラー)の利点は?

足関節動脈・上腕動脈血圧比(ABI)や微量の酸素(TcPO2)の検査に比較して、正確、再現可能。
石灰化・動脈硬化の影響を受けない。
測定時間が短くて済む(5分以下)。
従来のTcPo2の血流検査機に比較し、簡易な操作で皮膚加温は不必要。
TcPo2の機械のように測定前のキャリブレーション不必要。
SPP計測で波形を印刷し、カルテに貼ると保険点数100点加算できる。
新機種 “PAD 3000“
従来機 PV2000に比較し、 計測を全自動化した。
よって、技術者ごとの計測値変動を排除できる。
測定後、自動的に結果リポートを製作、プリントすることが可能。
検査結果はPC内に保存。
カフ、レーザーセンサーは個別、安価を実現。

主なSPPレーザードップラー使用法:

  • 創傷ケアセンターで創傷治癒率の予測
  • バイパス手術前後の血流モニター
  • 重症虚血肢の診断
  • 足切断オペ前のプラン作り (中足骨切断 対 膝下切断 対 膝上切断 など)
  • 循環・心臓外科専門科への紹介前のテスト

SPP数値 結果:

30mmHg以下、重度虚血肢、外科への血流再建依頼が必要
40mmHg以上、創傷はおそらく治癒可能
40-60mmHg、 軽度-中度の足肢虚血肢
70mmHg以上、正常血流値

SPPの臨床研究:

Lo et al(2004), Loma Linda University(California)創傷センターでの研究
“創傷治癒の的中率の比較: SPPとTcPO2(従来の血流計測技術)”

結果:

2003年 83人が治療され、75人が治癒。
創傷治癒予測の的中率は SPP 90% (69/75人)、TcPo2 65% (49/75人)。
2004年 99人が治療され、88人が治癒。
創傷治癒予測の的中率は SPP 92% (81/88人)、TcPo2 67% (59/88人)。 さらに細かく分析し、18人の創傷患者をSPPとTcPO2で検査し、一年間の治癒可否の的中率を比較すると、  SPP群:18人中17名が SPP>30mmHgで治癒可能と予測 ⇒ 12人中11名が完全治癒 (92%)、 3人中3人が部分治癒 (100%)。
TcPo2群: 18人中5名が TcPo2>30mmHgで治癒可能と予測 ⇒ そのうち3名が完全治癒 (25%)、  3名が部分治癒 (33%)。
と、SPPの創傷治癒可否予測の正確さが顕著に現れた。これによって、基本的にSPPは創傷治癒を予測する為の最も正確な計測機械として信頼できる。
以下のグラフを見ても分かるように、SPPでは30mmHgでくっきり治癒傾向が分かれているのに対して、同じ患者のABI数値では0から2までまちまちなのが分かる。これはABIは血流アセスメントに(特に動脈硬化で0.9以上に上がった患者などは)信頼性が少ない、ということである。

(Castronovo et al. J. Vasc Surg 1997)
特に下肢創傷の場合、虚血状態によって治療方法や計画が変化する場合がある。
血流アセスメントはABIとSPPから始め、ABIが0.9以下、もしくはSPPが50以下ならすぐに血管外科へコンサルトし、血流改善が図れるかどうかチェックすることが望ましい。
その他、バイパスやPTA、エキシマーレーザーPTA、Silverhawkなどの血管内治療の前後にも、SPPの数値を比較することで、血流改善オペが成功したか、血流改善が維持されているか、などの判断に役立つ。