糖尿病 潰瘍 足

創傷ケアケーススタディ:膿疱性皮膚炎|メインビジュアル
創傷ケアケーススタディ:膿疱性皮膚炎

創傷ケアケーススタディ:膿疱性皮膚炎

黄色ブドウ球菌による膿疱性皮膚炎のケーススタディを紹介します。

プレゼンテーション

コントロール不良のインシュリン依存性糖尿病の51歳ヒスパニック系女性。左足に潰瘍あり。
1ヶ月前に虫刺されに似た軽く痒みを伴うエリマトーデス皮疹を発症し、それが次第に拡大して破裂、潰瘍となる。
それから数日間で潰瘍の発赤、腫脹、皮膚の緊張は増し、膿がでるようになった。コンサルに来院する2 週間前に患者は発熱と悪寒で1 日入院。退院時経口のlevofloxacin とclindamycin を処方され、毎日の洗浄とドレッシング交換を指示された。
患者は1987年にインシュリン依存性糖尿病と診断され、それ以降インシュリン注射と数種類の血糖降下剤を投与されている。しかし異常な血清グルコース値が示すとおり血糖コントロールは悪い(136-374mg/dL。正常値は65-115mg/dL)。患者は以前2003年11 月にも入院しており、そのときは発赤、疼痛、腫脹を伴う右下肢前面の潰瘍があった。患者は平熱で白血球数も6000 と正常だった。しかしながら血液培養の結果Oxacillin に感受性のある黄色ブドウ球菌が検出された。そしてclindamycin とlevocloxacin が投与され、4 日後に著明な改善が見られたため退院した。
患者は脛部、腕、臀部、腋など身体の様々な部分に膿胞やかぶれを頻繁に発症している病歴があり、時にはその治癒後色素沈着を起こしている。

身体所見

身体所見の結果は平熱、肥満、ヒスパニック系女性。頭部、頚部、胸部、腹部、背部、上肢は正常範囲内で、リンパ節腫脹は無し。皮膚の検査では左足前部下方に2cm の輪郭が明瞭な深い潰瘍(図1)があり、漿液性の膿が認められる。潰瘍部は厚く粘着性の硬化した壊死の皮膚と混ざった黄色いフィブリンで顕著に覆われている。
潰瘍の縁は硬化して紫色になっており、紅斑に囲まれている。幾つかの硬化状になった色素沈着があり、直径約1.5~2.5cm、両足に顕著に見られる(図2)。仙骨部や左腋窩部にも同様の色素沈着は見られるがそれほど顕著ではない。右上腕部には乾燥した3mmの膿胞あり。
図1
図2
モノフィラメントによるテストでは、両足とも足背から足底の末端側半分に分けて無感覚である。

検査と診断

検査
足部及び下肢のレントゲンでは骨髄炎と気泡はなし。白血球数5.7(正常値は4~11)。空腹時血糖値は340(正常値は65~115)で、尿検査でグルコース3+、ケトン1+が認められる。創部と外鼻孔の培養は、患者が抗生剤療法を受けていた為実施されなかった。
診断
下肢部に虫刺されに似た丘疹病変の既往があり、それが拡大、化膿し、コントロール不良の糖尿病、頻回なかぶれ、以前の菌血症の混合で、下肢の所見と合わせて潰瘍化した。

ディスカッション

グラム陽性バクテリア感染
1次および2次経皮感染の大半は通常黄色ブドウ球菌又はA 郡連鎖球菌によるものである。黄色ブドウ球菌は攻撃的な病原菌で、1次膿皮性、軟部組織感染と、病変皮膚の2次感染の最も一般的な原因である。
膿痂疹(とびひ)は小児の皮膚感染で最も一般的なものであり、大人にも極めて一般的に発症する。発症しやすくなる要素に、不潔、頻回な皮膚の外傷、温暖湿潤の環境などが挙げられる。膿痂疹には非水泡性と水泡性の2種類がある。
非水泡性膿痂疹は伝染性性膿痂疹とも呼ばれ、より優勢で膿痂疹の70%以上はこれにあたる。大半は黄色ブドウ球菌が原因だが、化膿性連鎖球菌も原因となりうる。この疾患は通常2~4mm の斑で始まり、それが小胞から膿胞となり、やがて破裂して表面のただれを形成し、はちみつ色の硬化皮膚に覆われる。発症しやすい場所は顔面(特に鼻と口の周り)や四肢である。
対照的に水泡性膿痂疹は透明、黄色又は濁った水分を含む貧弱な嚢胞で、簡単に破裂し、薄い鱗屑を残す。 非水泡性膿痂疹に見られるような厚い硬化皮膚は見られない。この疾患は主に新生児や幼児に起きやすく、病変は顔面、胴体、臀部、会陰部、又は四肢に見られる。病因は常に黄色ブドウ球菌である。
上記2 つの膿痂疹に比べ、膿胞性皮膚炎はより深い皮膚感染で、しばしば膿痂疹を放置したことが原因で発症する。臨床医の一部はこれを非水泡性膿痂疹が潰瘍化したものだと認識している。膿胞性皮膚炎は化膿性連鎖球菌及び(又は)黄色ブドウ球菌により起こる。病変は表面の膿皮化から真皮、既存の皮膚病部分、又は虫刺され・すり傷などの外傷部分に拡大する。通常は小児、放置された老人、又は糖尿病など免疫に欠陥のある患者に発症し、不潔や軽度の外傷も一因となる。
典型的な膿胞性皮膚炎病変は丘疹、小胞から始まり、それが数日間で直径0.5~3cm 程に拡大し、硬化皮膚を形成する。膿胞性皮膚炎潰瘍はくっきりとした外見で、膿の出る壊死組織よりなる。この症状は今回の患者の病変と一致する。更に膿胞性皮膚炎病変は治癒が遅く、傷跡を残す。今回の患者の潰瘍は1 ヶ月存在し、足部前面には複数の傷跡が残っており、過去の膿胞性皮膚炎及びかぶれと思われる。
数ヶ月前、患者の血液培養より黄色ブドウ球菌が検出されており、重度に感染した創傷を持つ糖尿病患者において、黄色ブドウ球菌血症は非常に一般的である。
糖尿病と感染
糖尿病患者は、ある角度からは通常免疫に欠陥がある、従ってより感染しやすいと考えられてきた。Shah とHux は糖尿病患者における感染疾患のリスクの数値明示化の調査を初めて行った。その遡及的集団調査には、100 万のケースが含まれた。糖尿病患者と非糖尿病患者を比べると、感染を招くリスクの比率は1.21、感染が原因と考えられる死亡のリスク比率は最大1.92 であった。又、糖尿病患者においては感染、特にバクテリア感染がより一般的であった。この研究から糖尿病が感染の発生と感染による死亡のリスクを高めるという結論に至った。
糖尿病患者における感染への感受性は免疫失調と白血球機能の欠陥に属すると考えられてきた。多型核白血球の走化性と食菌作用はエネルギーに依存するプロセスであり、それは糖尿病患者に欠けている。幾つかの研究は重度の糖尿病患者の最大50%に見られる足部感染における不適応な白血球の反応を文書化した。糖尿病患者の一部が血糖コントロールにより白血球の食菌作用が改善して殺菌の率も上昇したことがわかった。ケース中の半数には、感染において通常見られる発熱や白血球増多症などの徴候や症状が無いことがある。今回の患者には紅斑に囲まれ腫脹した膿を伴う潰瘍があったにもかかわらず平熱で白血球数も正常であった。このようなケースでは病巣と周囲組織の臨床的外見で、感染はあると判断してよい。
インシュリン欠乏と高血糖は創傷の治癒を妨げる。コラーゲン形成の量と質が不適切であれば直接影響する。
加えて高血糖は細胞膜でのホスホイノシチド転換減少により高血糖が直接細胞レベルで活動し、それが母体蛋白質管理の異常を引き起こすようである。糖尿病患者における微小循環の異常は更に、創傷への酸素と栄養素を運ぶ循環機能を減少させることにより治癒を妨げる。Liu らは糖尿病患者におけるバクテリアへの反応の機能欠陥は、線維芽細胞アポトーシスによる線維細胞数減少によることも一部あると発表している。
今回の患者の血糖管理の悪さが、膿胞性皮膚炎のリスクを助長している。

管理

糖尿病患者における感染創傷の管理で重要なものには、感染の抗菌治療、排膿とデブリードメント、血糖コントロール、虚血の管理、創部の除圧、患者教育などが挙げられる。創傷デブリードメントはバクテリアの減少と治癒を早めるために最重要とされ、又、壊死組織が除去されるまでは創傷は治癒しないため、感染創傷の管理には決めての要素とされる。加えて、絶対的嫌気性生物が存在する場合は、デブリードメントによって酸素にさらされるため、これら生物を殺し、バクテリア数が減少する。

治療

患者はclindamycin とlevofloxacin を2 週間投与された。外来では硬化した膿と潰瘍上の壊死組織を取り除く為に外科的デブリードメントが行われた。創傷ケアについては、患者は在宅での創部洗浄とパパインクリーム(デブリードメント効果のある酵素クリーム)塗布しその上から非粘着性のドレッシングを毎日貼付するよう指示された。
また、ブドウ球菌の通過を減少させるために1 日2 回鼻孔にmupirocin クリームを塗布するよう指示された。疼痛の管理にはイブプロフェン600mg を毎4~6 時間又は必要に応じて服用するよう処方された。糖尿病コントロールにはインシュリン(午前60 ユニット、午後20 ユニット)とmetformin(500mg1 日2 回)の投与。血糖レベルは患者の主治医と協力して注意深くモニターされた。
2 週間後のフォローアップ受診で潰瘍は著明に減少し、より浅いものとなっており、きれいなエリトマトーデスの肉芽形成が見られ、膿は最小限に(図3)。創傷ドレッシングはハイドロコロイドに変更し、患者は2~3 日に1 回交換を指示された。
図3
1ヶ月後の受診で創傷は完全に上皮化しており、色素異常を残して治癒した。新たな病変は無かった。

文献

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